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東京高等裁判所 昭和34年(う)1816号 判決 1959年10月31日

被告人 姜正熙

主文

原判決を破棄する。

本件を神奈川簡易裁判所に差し戻す。

理由

所論に鑑み記録を調査するに、原判決は、被告人が昭和三十二年五月十五日ころから同年九月十七日ころまでの間に、単独又は他の者と共謀して七回にわたり窃盗をした事実(原判示第一ないし第四事実)と、被告人が朝鮮に国籍を有する外国人で外国人登録証明書を有しながら、原判示日時場所において法定の除外理由がないのに外国人登録証明書を携帯しなかつた事実(原判示第五事実)とを認定し、右各窃盗罪については刑法第二百三十五条(共犯ある犯行についてはそのほかに同法第六十条)を、外国人登録法違反罪については外国人登録法第十三条第一項、第十八条第一項第七号をそれぞれ適用し、そのほかに刑法第四十五条前段、第四十七条、第十条、第二十一条を適用し、被告人を懲役一年二月に処し、未決勾留日数中二十日を右本刑に算入する旨の言渡をしているのであるから、原判決においては、原判示各窃盗罪と外国人登録法違反罪とが併合罪にあたるものとし、外国人登録法違反罪については所定刑のうち懲役刑を選択し、最も重い窃盗罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において右のように懲役刑を科したものと解する。しかし裁判所法第三十三条によれば、簡易裁判所は刑事事件については右法条第一項第二号に定める罪についてのみ管轄権があり、そして選択刑としては、罰金刑を定められている罪については、原則として禁こ以上の刑を科することができないのであつて、ただ同法条第二項但書の規定に該当する場合のみ懲役刑を科する権限を有することが明瞭である。

ところで本件外国人登録法違反の罪は、選択刑として罰金刑の定めのある罪であるから、簡易裁判所たる原審においてこれを審判する管轄権を有するものであるが、同罪は裁判所法第三十三条第二項但書に規定する罪ではないし、また原判示の各窃盗罪と刑法第五十四条第一項所定の関係もないこと原判決及び記録上明白であるから、若し原審において本件外国人登録法違反の罪につき懲役刑を科するのが相当と認めた場合には、裁判所法第三十三条第三項に従いこれを管轄地方裁判所に移送しなければならない筋合である。然るに原審が右犯罪につき前記のように懲役刑を選択することを相当と認めながら、裁判所法第三十三条第三項に違反し裁判所に移送する手続を執らず、同法条第二項に違背して前記窃盗罪と併合罪として懲役刑をもつて自ら処断したのは、不法に管轄を認めたとはいえないが、その訴訟手続において法令に違反したものといわなければならない。そしてこの違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れず、論旨は結局理由がある。

(裁判官 中西要一 久永正勝 河本文夫)

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